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消失を彷徨う空中庭園

消失を彷徨う空中庭園

第四章 会議

 会議室には既に他のメンバーは揃っていた。
「さて、今回は少し重要な話をしよう」
 田島がそう言うと、雰囲気がしまる。
「まあ、この中の何人かは知っていることだから、いずれ伝わることなのだがね。オアシスフラワーのことだが……」
 田島は目で木田を一瞥した。木田は少し怯んだ。その後、サラを見た。これから話すことについて、同意が欲しかったのか。サラが反応する前に田島は続けた。
「オアシスフラワーは元来日本産ではない、と言われている。最も原産地は不明だがね。今は世界の四カ所ほどで、それらしき報告があがっている。日本のこれは、四番目に発見された」
「外来種ですか? でも、高山植物がどうやって海を越えているんです?」
「ふむ……」
「誰かが、持ち込んだということでしょうか」
「それについては、また後で諸君らと意見を交わそうじゃないか。まだ私には言いたいことがある」
 田島の言葉には、有無を言わさぬ重みがあった。権威と実力に裏打ちされた本物の重みだ。
「オアシスフラワーに関わって、今までに二十人以上の人間が命を落としている。花を採取しようと近づいて、その場で倒れるという事件が過去に何例も起きている。どうやら、何らかの強い防衛本能があるようだ。司法解剖の結果、それらの死因は新種の神経毒によるものだということが最近になって判明した。テドロドキシンに似た強烈な神経毒を、気体で散布、又は自らの表面に纏っていると考えられている。その他のことについては、まだ分析中だ。ちなみに、これは、アメリカでのデータだがね」
「それは、日本にいるものと同種なんですか」
「そうだな。見た目や生態などから、ほぼ同一のものと考えて支障あるまい。もっとも、すぐにDNA鑑定の結果が出るがな」
 一同は呆然とした。
「木田君、君もこの花について調べようとしていたようだが、やめておきたまえ。この花は危険だ。何があっても責任はとれないからな」
「田島さん。ここには採取してきた花があるんでしょう? 何故我々に調べさせてくれないんです?」
「調べとるよ。隔離された別室で、厳重な管理の元にな。君が知らないだけだ」
「田島さん。あんたは俺を差別してるのかよ!」
「君は何もわかっていない。これがいかに重要な研究か理解していないだろう」
「この花は今、P4レベルのバイオハザード対策をした別の施設で管理されている。入室できる者も厳選されておる」
「は、そんな大袈裟な。だって、感染するウイルスではないでしょう。毒があるかもしれないにせよ、嘘だってのはわかりますよ。マシな嘘を言って下さいよ」
「ふむ。だが、強烈な神経毒をやはり放出したらしいとの報告がある。しかも、所員が目を離した隙に、テーブルの表面が溶けていたそうだ。酸によるものらしい。しかし、そこにはそんな薬品はなかった」
「まさか。そんな植物聞いたことがない。あり得ない」
「木田君。君は私が何を言っても、ちっとも真面目にやろうとはしない。自己顕示は立派だがね、もういい。今回は解散しよう。資料はおのおので読んで考察しておいてくれ。意見がある者は後で私の研究室に来てくれればいい」
 それだけ言うと、田島は会議室から出て行ってしまった。


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